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「じゃあ入るわよ?」
「ああ」
一応和臣に声をかけてから玄関のチャイムを押すと、待ちかねていた様にすぐに戸が開いて香織が顔を出した。
「お帰りなさい幸恵さん。和臣さんもいらっしゃい。待ってたのよ!」
「ただいま」
「お邪魔します」
上機嫌で二人に道を譲りながら、ここで香織が唐突に告げる。
「うふふ、今日はご馳走よ? 一杯食べてね? 今年は君島さんから沢山頂いちゃったし」
「親父から?」
「君島さんから? 毎年頂いてたの?」
揃って怪訝な顔になった二人だったが、香織は事も無げに説明した。
「勿論、暮れには毎年頂いてたけど、今年は『愚息が大変ご迷惑おかけしました』のお詫びの言葉と共に、昨日いつもより大量に送って下さって。あ、そうそう、幸恵さん、三日前に誘拐されたんですって!? 本当にびっくりしたわ~。何でも和臣さんの元顧客の逆恨みですって? とんだとばっちりだったわね。酷い怪我とかしなくて何よりだったわ」
「……え?」
「しまった。親父経由で漏れるとは、想定外だった……」
胸を押さえて安堵してみせた兄嫁に幸恵は顔を引き攣らせ、和臣は思わず片手で顔を覆って呻いた。そんな二人に構わずに、香織が真顔で話を続ける。
「本当に世の中物騒よね。幸恵さんは一人暮らしだし、気をつけなきゃだめよ?」
「……はい、注意します」
「それから和臣さん。今回は無事に済んだけど、今後幸恵さんに危害が及ばない様に、十分に配慮して下さいね?」
「十分留意します……」
年長者の立場から言い聞かせてきた香織に反論できる筈も無く、二人は素直に頷いた。そして幸恵は一応確認を入れてみる。
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