第2章

2/9
前へ
/151ページ
次へ
「じゃあ入るわよ?」 「ああ」  一応和臣に声をかけてから玄関のチャイムを押すと、待ちかねていた様にすぐに戸が開いて香織が顔を出した。 「お帰りなさい幸恵さん。和臣さんもいらっしゃい。待ってたのよ!」 「ただいま」 「お邪魔します」  上機嫌で二人に道を譲りながら、ここで香織が唐突に告げる。 「うふふ、今日はご馳走よ? 一杯食べてね? 今年は君島さんから沢山頂いちゃったし」 「親父から?」 「君島さんから? 毎年頂いてたの?」  揃って怪訝な顔になった二人だったが、香織は事も無げに説明した。 「勿論、暮れには毎年頂いてたけど、今年は『愚息が大変ご迷惑おかけしました』のお詫びの言葉と共に、昨日いつもより大量に送って下さって。あ、そうそう、幸恵さん、三日前に誘拐されたんですって!? 本当にびっくりしたわ~。何でも和臣さんの元顧客の逆恨みですって? とんだとばっちりだったわね。酷い怪我とかしなくて何よりだったわ」 「……え?」 「しまった。親父経由で漏れるとは、想定外だった……」  胸を押さえて安堵してみせた兄嫁に幸恵は顔を引き攣らせ、和臣は思わず片手で顔を覆って呻いた。そんな二人に構わずに、香織が真顔で話を続ける。 「本当に世の中物騒よね。幸恵さんは一人暮らしだし、気をつけなきゃだめよ?」 「……はい、注意します」 「それから和臣さん。今回は無事に済んだけど、今後幸恵さんに危害が及ばない様に、十分に配慮して下さいね?」 「十分留意します……」  年長者の立場から言い聞かせてきた香織に反論できる筈も無く、二人は素直に頷いた。そして幸恵は一応確認を入れてみる。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

88人が本棚に入れています
本棚に追加