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「あの、香織さん。それって当然、兄さんや父さんや母さんも……」
「勿論知ってるわよ? 電話を受けたのがお義母さんだもの。さあ、入って入って」
「はい」
「失礼します」
明るい表情の香織とは裏腹に、幸恵と和臣は気まずい空気を漂わせながら荷物を持って上がり込み、座敷へと進んだ。そして気合いを入れて襖を開けながら、中に居る人間に声をかける。
「戻りました……」
「お邪魔します……」
二人は叱責の言葉の一つは投げつけられるだろうと身構えていたのだが、予想に反して陽気過ぎる声が返ってきて面食らった。
「おう、幸恵。戻ったか。この生牡蠣と純米大吟醸がムチャクチャ旨いぞ? 目一杯食って飲め! こんな旨いのが飲み食いできるのはお前のおかげだ!」
「父さん……」
「君島さんが『帰宅した時、幸恵さんに食べさせてあげて下さい』って、色々送って下さってね。もうあんな立派などんこや数の子や昆布、滅多にお目にかかれないわよ? 御節料理が助かったわ~。どうせならこれからも年に一回位、誘拐されてくれない?」
「母さん……」
「新巻鮭もイクラも相当なもんだったよな~。どうせ幸恵が和臣さんに迷惑かけて暴れた挙げ句に、巻き込まれたってオチじゃないのか? 君島さんに気を遣わせてしまったみたいで、却って申し訳無いよな~」
「……他に言う事は無いわけ? 兄さん」
「あぁ? 他に何を言えと? 大丈夫だ、お前の食べる分はたっぷりあるから。香織の実家にも配ろうかと、皆で話してた位だし」
「幸恵さん、皆、悪気は無いから。話を聞いた時、何事も無くて良かったなって言ってたし。怒らないでね?」
「……分かりました」
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