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その問いに、和臣は取り敢えず決定している内容から告げる事にした。
「お互い荷物が結構有るし、当面は互いの部屋を行き来する事になるが、元々幸恵が通いやすい様に、お前のマンションと同様あの路線の駅に近い場所で、広めの物件を探してたんだ。幾つかピックアップしてるから、どこを購入するか幸恵と相談して、来年までには引っ越すつもりだ」
「購入資金は? 結婚祝いに少し出してやるか?」
「見くびるなよ、親父。俺の勤務先、どこだか忘れてないよな? ちゃんと頭金位は貯めてるし、銀行員が勤務先でローンを組めないなんて、笑い話にもならないんだが」
「確かに笑い話にもならんな、すまん」
思わず心配そうに口を挟んできた父親に和臣は苦笑いで返し、対する君島も豪快に笑った。そこまで話を聞いた綾乃が、嬉々として尋ねてくる。
「じゃあ同じ沿線に住む事になるから、行き来し易いですね。引っ越したら遊びに行って良いですか?」
「ええ、勿論」
「綾乃。新婚なんだから邪魔するな」
幸恵は快く頷こうとしたが、和臣はあっさり切って捨てた。その言い方に流石に綾乃が抗議の叫びを上げる。
「ええ? そんなにしょっちゅう入り浸ったりしないわよ。ちょっと位良いじゃない! ちい兄ちゃん横暴!」
「何とでも言え」
「和臣、心狭過ぎよ……」
全く妥協する気配を見せない和臣と、珍しく怒っている綾乃を見て、幸恵は思わず溜め息を吐いた。そんな息子夫婦と娘のやりとりを、君島は笑いを堪える風情で眺めていたが、空になった皿と入れ替わりにオードブルのテリーヌが目の前に出されたのを契機に、顔付きを改めて神妙に幸恵に声をかける。
「それで、実は幸恵さんに、披露宴についてお願いが有るんだが……」
「親父、何も今言わなくても」
「はい、何でしょうか?」
どうやらこれから父親が言うつもりの内容を察しているらしい和臣が、僅かに渋面になったが、幸恵は何を言われるのかと身構えながらも素直に応じた。すると君島が静かに話し出す。
「その、二人とも東京で勤務しているから、招待客として職場関係の方や交友関係がある方々を招くとなると、都内で挙式及び披露宴を開催するのが妥当だと思う」
「そうですね。それが何か?」
「それとは別に、広島でもやって貰いたい。費用は全てこちら持ちにさせて貰うから。どうだろうか?」
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