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真顔で言われた内容を頭の中で反芻した幸恵は、ちらりと隣で小さく溜め息を吐いた和臣を見てから、(うん、まあ、ある程度見世物になるのは、仕方ないでしょうね)と自分自身を納得させた。
「…………ええと、君島家は交友関係が幅広いと思いますし、東京に大挙して来て頂くのもなんですから、それが妥当でしょうね」
「宜しく頼みます」
そして幸恵が比較的あっさりと受け入れてくれた為、安堵した様にテリーヌにナイフとフォークを伸ばした舅と義妹を眺めつつ、和臣に囁く。
「……家を出た次男の披露宴でも、やっぱり必要なの?」
「色々あってな」
若干口調に苦々しい物が混ざった為、幸恵は慌てて宥めた。
「今更、それ位で文句は付けないわよ」
「安心してくれ。兄貴達程派手じゃない筈だから」
「比較対象がどんな物が分からないから、コメントできないわ。あ、そうだ」
そこで、唐突にこの間気になっていた事を思い出した幸恵は、君島に顔を向けて問いかけた。
「君島さん、お聞きしたいんですが」
「何かな?」
「篤志さんが私の実家に、泉さんを迎えに行ったかどうかご存知ありませんか?一昨日香織さんと話した時には、まだ姿を見せないどころか、連絡すら無かった様なんですが?」
幸恵は何気なく尋ねたつもりだったのだが、ちょうどテリーヌを食べ終えた君島は「うっ」と詰まりながら、カトラリーを皿に置きつつ気まずげに弁解してきた。
「その……、それなんだが、どうやらある条例を巡って県議会が紛糾しているそうで……」
常日頃の雄弁さと強硬さが影を潜めたその物言いに、幸恵は無意識にこめかみに青筋を浮かべ、綾乃は盛大に肩を落とし、和臣は思わず舌打ちした。
「お兄ちゃん……」
「いい加減にしないと、本気で愛想尽かされるぞ。言っておくが、俺は泉さんの味方だからな」
「……電話をかける位、できますよね?」
「いや、うん、まあ、幸恵さんの言うとおりだ。今回は私からも、再度あいつに意見しておこう」
「宜しくお願いします」
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