第15章

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「どういたしまして。あの……、それで夢乃さんの体調は大丈夫なんでしょうか?」  スマホを受け取りながら懸念を伝えてきた幸恵に、君島は苦々しい表情を浮かべながらも、なるべく穏当な言葉遣いを心掛けつつ言葉を返した。 「ご心配かけてすみません。あれはこうと決めたら頑固ですから。どうせ主治医と派手に口論した挙げ句、どうにか丸め込んで外泊許可をむしり取ったんでしょう」 「やりそうだよな……」 「あと1ヶ月は入院してる筈なのに……」  思わずと言った感じで声を漏らした兄妹に、幸恵は益々怪訝な顔で尋ねる。 「派手に口論してから、どうやって丸め込むのかしら?」 「まあ、色々な」 「うん、色々ね」  何やらこれまでに色々悟っているらしい二人が、どこか遠い目をしながら応じると、君島が補足説明を入れてくる。 「体調が最近安定している事は勿論ですが、ちょうど入院中の病棟に私の親戚が看護士として配置されていまして。彼女に無理を言って休みを入れて貰って、東京までの往復の付き添いを頼んだそうです。それなら心配は少ないだろうが……、全く、無茶をするにも程がある」 「鳥山さんにお礼しないとな」 「本当だよね……」  どうやら該当する人物に心当たりが有るらしい二人が深い溜め息を吐いた所で、君島が顔付きを改めて和臣に声をかけた。 「それで和臣、実は来週の日曜は、党の常任理事会の後、決起集会があってだな」 「了解。荒川家には俺が出向いて、様子を見て来るから」 「あ、私も行く!」 「その、私も泉さんの事が気になりますし、実家に行こうと思うんですが」  君島に皆まで言わせず即座に応じた和臣と、それに引き続いて綾乃と幸恵も声を上げた為、君島は幾分表情を緩めて礼を述べた。 「宜しくお願いします。和臣と綾乃も頼むぞ。大丈夫だとは思うが」  そしてスープの皿と入れ替わりに魚料理の皿が出て来た為、それが揃ってギャルソンが退出してから、君島がナイフとフォークを持ち上げながら、確認を入れてきた。 「それで幸恵さん、和臣が星光文具の最寄り駅沿線の物件を探していますから、仕事はこのまま続けるんですよね?」 「はい、そのつもりですが、何か支障があるでしょうか?」 「いえ、色々大変かと思いますが、頑張って下さい。私では家事育児のお手伝いはできないと思いますが、必要な時に必要な人手を差し向ける事はできますので、ご遠慮無く」
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