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「ありがとうございます。何かありましたら、遠慮無くお願いします」
共働きは駄目だと釘を刺されるかと身構えた幸恵だったが、予想に反して君島が寛容な意見を述べてきた為、安堵して笑顔で頷いた。そこで隣から上機嫌な声が響いてくる。
「うん、取り敢えず一年は新婚気分を味わいたいし、その間は子供は作らない事にして、でもその後は子供は三人欲しいから、上から順に女、男、女かな? それで幸恵が四十になるまでに出産を済ませるとなると、手間のかかる期間と育児休業の取得も考えると、四年おきの出産が理想的だけど」
「黙って聞いていれば、何をヘラヘラと自分1人で頭の中で組み立てた家族計画なんぞを口にしてるのよ!」
いきなりとんでもない事を口走られた幸恵は、勢い良く和臣に向き直ってその胸元に掴みかかったが、対する和臣は飄々として言ってのけた。
「え? 幸恵は男2人に女1人とか、男3人の方が良いとか? 駄目駄目、息子なんか成長すると愛想なくなるし、何やらかすか分からないし。娘ばかりだと色々大変だから、虫除け要員に息子は1人居ればちょど良いと思う」
「得体のしれない息子本人が、何ほざいてんのよ! 第一、息子が虫除け要員ってふざけてるわけ!? 出産も子供の数も、まだって言うか当面白紙よ白紙!! 私にだって仕事があるんですからね!?」
「分かった分かった。じゃあこれからゆっくり、二人で考えていこうな?」
憤怒の形相で和臣を締め上げる幸恵だったが、当の和臣は余裕の表情で幸恵を宥めていた。そんな兄夫婦の姿を目の当たりにして、綾乃は隣の父親に体を寄せて小声で囁く。
「お父さん……」
「どうした?」
「ちぃ兄ちゃん、家族計画どころか、今後五十年の人生設計位、計画済みな気がしてしょうがないんだけど?」
そんな娘の訴えに、君島はまだ何やら言い合っている当人達にチラリと目を向けてから、真顔で肯定する。
「やってるかもな。そしてなんだかんだ言いつつ、それに幸恵さんが振り回されそうで心配だ」
「家族から見ても、ちぃ兄ちゃんって何を考えているか今いち分からない、傍迷惑な人だものね……」
幸恵に少し同情しながらの父娘の溜め息は、目の前の二人には気付かれる事無く、宙に消えたのだった。
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