第16章

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 予め聞いていた篤志達の到着予定時刻前に幸恵と和臣が荒川家に顔を出すと、出迎えてくれた香織に引き続き、泉も奥から出て来て元気な顔を見せてくれた。 「いらっしゃい、幸恵さん」 「泉さん、顔色も良さそうで良かったです。この間、体調はどうでしたか?」  半ば強引に連れてきてしまった自覚があっただけに、密かに心配していた幸恵だったが、泉はその懸念を笑って打ち消した。 「全く問題なかったから、大丈夫よ幸恵さん。ここまでわざわざ来てくれてありがとう」 「だって今日で帰る事になってますから、見送り位はちゃんとしたかったんです」  そこでひとまず奥の居間に向かったが、歩きながら泉が思い出した様に付け加えた。「あ、そうそう、二人とも入籍おめでとう。和臣君から話を聞いたの。向こうに帰って落ち着いたら、お祝いを贈りますね?」 「ありがとうございます」  不意打ちで満面の笑みで言われてしまった為、ちょっと照れながら幸恵は礼を述べた。そしてその照れくささを隠す様に和臣を軽く睨んだが、和臣にしてみれば軽く上気した顔で睨み付けてくる幸恵の顔を見ても、笑いしか出てこないのが正直な所であり、そんな二人を観察した香織と泉は、笑顔で顔を見合わせる。  居間に入ると既に綾乃が到着しており、皆でお茶を飲み始めると、ふと幸恵は夢乃の事が気になり始めた。 「でも夢乃さんの体調って、本当に大丈夫なんですか? まだ怪我が治りきって無いのに、広島から飛行機で日帰りなんて……。せっかくここまで来るんだから、一泊位していけば良いと思うんですけど」  思わずそう呟くと、泉も困った顔で頷く。 「私も電話でそう言ってみたんですが、先生の許可が下りなかったとかで」  そう泉が説明すると、幸恵は納得しかねる顔付きになった。 「外泊許可が出ない患者に、往復何百キロの外出許可って出るの?」 「さあ……」 「どうかしら?」  信子も香織も同様に首を捻る中、何やら悟りきった表情の君島家の面々は、無言で茶をすすった。すると表の方から何やら物音が伝わってきた為、まず女性陣が腰を上げる。 「あら、到着したかしら?」 「行ってみましょう」  そして一同がぞろぞろと玄関に向かい、信子が外に呼びかけながら引き戸を開けると、予想に違わず夢乃達の来訪ではあったが、その姿を見た綾乃は思わず大声を張り上げた。 「お母さん、何それ? 大丈夫なの!?」
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