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「篤志さん、お疲れ様でした。お義母さんの体調も良かった様で何よりです」
「ああ。お前も何事も無かった様で良かった。美郷も待ってるし、伯父さん達にお礼を言ったらすぐ帰るからな」
「はい。荷物はもう纏めてありますので」
穏やかな笑みを浮かべながら声をかけてきた篤志に、泉が素直に頷いて話が終わってしまったのを見て、唖然とした幸恵は思わず声を上げた。
「え? ちょっと、言う事はそれだけなの!? 泉さんも良いんですか?」
それを聞いた和臣と綾乃は(しまった……)と顔色を変え、篤志は表情を消したが、泉は苦笑気味に幸恵に説明した。
「ええ、この前電話で色々、これまで話していなかった事について、じっくり話し合いましたので。私はそれで納得していますから」
「そうですか……。まあ、当人同士が納得していれば良いんですが……」
それでも幸恵は不満げにブツブツと呟いていると、「幸恵、俺達も奥に行こうか」などとさり気なく話しかけていた和臣を無視しながら、篤志が幸恵に声をかけた。
「……なんだ、居たのか“和臣の嫁”。久し振りだな」
はっきり言って嫌味以外の何物でも無いその台詞に、幸恵は真っ向から受けて立つ。
「ええ、居たんですよ“泉さんのご主人”。ここは私の実家なものですから。予想外にたったの十三日で再びお会いできて、光栄ですわ」
「…………」
幸恵が堂々と嫌味で言い返した為、和臣は思わず無言で片手で顔を覆った。そして二人の嫌味の応酬が続く。
「ほう? 和臣も一緒に居ると言う事は、入籍早々愛想を尽かされて、実家に戻った訳では無いみたいだな」
「お陰様で、仕事を口実に奥さんほったらかしのどこぞのお偉いさんと違って、ウザい位纏わりついて離してくれませんの」
そう言って、わざとらしく「おほほほほ」と高笑いした幸恵を、篤志が苦々しい顔付きで睨みつける。
「相変わらず口の減らない女だな……」
「陰険な小舅への、条件反射でしょうか?」
「その位で止めておけ、兄貴。幸恵もだ」
「……ああ」
「分かってるわよ」
さすがに和臣が険しい表情で釘を刺すと、忌々しげな顔になりながらも二人は頷いた。そして何を思ったか、篤志が幸恵に真顔で向き直って口を開く。
「その……、この前の訪問時には、大変失礼な事をして申し訳無かった。反省している」
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