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夢乃や屋敷の主だった面々に随分言い諭されたのか、いきなり篤志が殊勝に自分の行為を謝罪してきた為、幸恵は正直戸惑った。
(う、いきなりだなんて不意打ちじゃない。でも嫌々じゃなくて、一応素直に謝っている様に見えるし……。ここで変にごねたら、ろくでもない女って言われるわよね……)
周囲で和臣は勿論、綾乃と泉もハラハラしながら自分達のやり取りを窺っているのが分かった幸恵は、潔く自分も頭を下げた。
「いえ、こちらこそ、君島家の皆さんが以前こちらを訪問した時の非礼な振る舞いを、篤志さんにまだきちんと謝罪していませんでした。申し訳ありませんでした」
「それに関してはもう良い。何と言っても子供の頃の話だしな」
多少わだかまりのある口調だったものの、篤志が冷静にそう答えた為、ここで泉が会話に割り込んで確認を入れた。
「じゃあお互い、これで手打ちって事で良いわね? 私これから幸恵さんとも、仲良くお付き合いしていきたいもの」
「ああ、分かってる」
「良かった。幸恵さん、宜しくね?」
「こちらこそ宜しくお願いします、泉さん」
明らかに安堵した口調で泉が振り返って声をかけてきた為、幸恵も素直に笑顔で応じた。篤志はそんな彼女達から視線を移し、和臣に向かって問いかける。
「ところで和臣、披露宴の件だが、当然広島でもするよな?」
「ああ、そのつもりでいる。親父から幸恵に話して、もう了解を取っているし」
「それは話が早くて助かる。和解の印に地元での披露宴は、俺と泉で目一杯派手派手しく開催する準備を整えてやるからな」
「そうね。お二人とも東京で働いているし、身一つで来て貰えれば大丈夫なようにしておきますから、安心してね?」
「……え?」
「ちょっと待って下さい!?」
篤志は多少意地悪く、泉は完全に親切心から口にした内容に、和臣と幸恵は揃って顔色を変えた。しかし篤志が平然と話を続ける。
「招待客は俺達の時程度の人数を呼ぶぞ。あと、そうだな……、和臣に未練たらたらで、何かあると家の様子を窺いに来る過去の見合い相手とかも全員招待して、この際完全に諦めて貰おうじゃないか」
それを聞いた幸恵は、和臣に多少白い目を向けながら低く呟いた。
「……ふぅん? そんな人が何人も居るんだ?」
「誤解だ! 俺にやましい所は微塵も無いぞ!」
僅かに険しい表情を見せて否定した和臣の言葉にかぶせる様に、篤志が上機嫌に言い放つ。
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