第16章

6/7
前へ
/151ページ
次へ
「いや、めでたい! 幸恵さんみたいな美人を隣に座らせていたら誰も文句は言わないだろうし、これで万事解決だな? 和臣」  そして苦笑いしている泉の横で、「はっはっは」と豪快に笑う篤志を見ながら、幸恵と和臣は顔を引き攣らせながら小さく呻いた。 「絶対ワザとだろ……」 「この熊小舅が……」  取り敢えずは和解したものの、今後も好敵手として幸恵との関係を維持する気満々の篤志に、和臣はため息を吐き、幸恵はこめかみに青筋を浮かべた。そんな二人を笑いを堪えて傍観していた香織が奥へと促し、皆で揃って居間へと移動する。すると未だに正座が無理な夢乃が椅子に落ち着き、信子が出したお茶を飲みながら、室内を見回して感想を述べている所だった。 「外から見た感じもそうだったけど、やっぱり室内も変わって無いわね」  それを聞いた健が、苦笑いで応じる。 「いや、お前が居た頃と比べると、さすがに古くなってるさ。実は来年、建て直しするつもりでいるんだ」 「そうなの?」 「ああ、香織さんの出産に合わせてな。出産後も暫く実家で預かって貰う事にして、その間にこの家を解して間取りを変えて建て直す事にしてる」  兄の話を聞いて軽く目を見張った夢乃だったが、すぐにしみじみとした口調で述べた。 「そうだったの……。今年のうちに顔を出して良かったわ。じゃあ仏壇にお線香を上げさせて貰うけど、その後少し部屋を見せて貰って良いかしら?」 「ああ、勿論構わんが、今あそこは幸恵の私物が置いて有ってな。幸恵そういう訳だから、建て替え前までにお前の私物を整理しておいてくれ。あと夢乃に中を見せても構わないな?」 「勿論良いわよ」  座卓を囲んで座ろうとした時健が確認を入れてきた為、幸恵はあっさりと頷いた。そこで夢乃が改めて幸恵に向き直り、謝罪しながら軽く頭を下げる。 「さっき兄さんと信子さんには頭を下げたんだけど、今回泉が幸恵さんに随分お世話になったみたいね。ありがとうございました。それに篤志が失礼をしたみたいで、申し訳ありませんでした。是非直に謝らないと気が済まなかったものだから」 「いえ、大した事はしてませんでしたし、お気遣いなく。それに篤志さんにも先程きちんと謝って貰いましたし、もう気にしていませんから」 「それなら良かったわ」  幸恵は慌てて夢乃を宥め、なんとか納得して貰ってから、お茶を出してくれた香織に囁いた。 「……香織さん」
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

88人が本棚に入れています
本棚に追加