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その後、一時間強で夢乃達の一行は荒川家を立ち去り、幸恵達もそれから更に一時間程して都心に戻って行った。その日は和臣のマンションに泊まる事にしていた為、二人でそこに入った途端、幸恵は緊張の糸が切れた様にバッグを放り出す様にしてラグに横たわり、顔をクッションに埋めて沈黙を保つ。
「お疲れ」
「……本当に、お疲れ様よね」
幸恵が微動だにしない間に、和臣がテキパキとお湯を沸かしてお茶を淹れ、それを入れたカップを持って行って幸恵に声をかけた。するとその声に、幸恵がゆっくりと顔を上げ、更に体も起こして座り直し、そのカップを受け取る。その中身を一口飲んで人心地ついた幸恵は、何気なく呟いた。
「飛行機はそろそろ飛んだかしら?」
「そうだな……。飛んでしまえば広島まではさすがに速いが」
考えながら和臣が応じたが、その台詞で幸恵は否応なしに気乗りしない事を思い出してしまう。
「ねえ……、本当に、広島でも披露宴をやらなきゃ駄目?」
「頼む」
「分かったわよ。言ってみただけだから。これで結婚後早くも貸し1よ?」
真顔での即答に幸恵は弁解しながら、(面倒くさいのは確かに嫌だけど、準備は全部やってくれるし、当日見せ物になるだけよね)と自分自身に言い聞かせた。するとそこで和臣が笑って言葉を返してくる。
「結婚早々貸しを作ったか……。だが幸恵への借りだったら、ちゃんと倍にして返すから心配しないでくれ」
「……何となく和臣相手に、借りも貸しもあまり作らない方が良い様な気がしてきたわ」
「酷いな。夫を信用して無いのか?」
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