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幸恵が目を開けた時、確かにそこは見慣れた寝室だったが、何故自分がこの場所に居るのか、その理由が全く分からなかった。
「……えっと」
辺りを見回しながらゆっくりと起き上がり、スーツの上着を脱いだだけの状態で寝ていた事を確認した幸恵は、本気で首を捻った。
「どうして帰って来てるわけ? 確か……、警察からの帰りに、あいつとまたあの店に、焼き鳥を食べに行った筈なんだけど」
そして真剣に考え込んだが、すぐにここで悩んでいても仕方無いと思い直し、現実的な行動に出る。
「うわ……、完全に遅刻だわ。もう慌てても仕方ないか。焦らずにシャワーだけ浴びて、着替えて出社しよう」
確認した枕時計は九時近くを示しており、幸恵はうんざりしながらも自業自得と割り切って寝室を出ると、ドアの向こうの続き部屋にワイシャツとスラックス姿の和臣が居た。
「ああ、幸恵さん、おはよう」
「……は?」
「二日酔いになってるかもしれないと思って、お粥にしてみたんだけど、食べてみる?」
にっこり笑いながら立ち上がって台所に向かって歩き出した和臣に、幸恵は一瞬固まってから呻くように問い質した。
「……どうしてあんたがここに居るのよ?」
「やっぱり覚えてないんだ……」
「さっさと質問に答えなさいよ!」
疲れた様に溜め息を吐きつつ応じた和臣に、幸恵が苛立たしげに叫ぶ。それを受けて、和臣はなるべく分かり易く、順序立てて話し始めた。
「幸恵さんは最初あまりお酒は飲んでなかった筈なんだけど、色々あって緊張の糸が一気に切れたらしくて、店で錯乱したんだ。それで俺のマンションに連れて行くのは言語道断だろうし、ここの住所は知ってたからタクシーで連れて来たんだけど」
「当たり前でしょうが!!」
鋭く幸恵が叫んだが、和臣は淡々と話を続けた。
「それで、バッグの中から鍵を探して玄関を開けたけど、俺がここの鍵を持ち帰るわけにいかないし、玄関はオートロックじゃないから、俺が出た後に中から閉めて貰う必要があるけど、幸恵さんがそのままベッドで熟睡してしまって。かといって女性の一人暮らしの部屋の鍵を、一階の郵便受けに入れて帰るなんて不用心極まりないし」
「まあ、それはそうでしょうね……。それで? 家主である私の許可無く、ここに泊まったと?」
一応和臣の主張を認めながらも、幸恵が多少皮肉っぽく確認を入れると、和臣は素直に頭を下げた。
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