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「事後承諾だけどごめん。幸恵さんの体調も急変しないかと心配だったし。勿論、疚しい事は何一つしてないから。勝手に台所は漁らせて貰ったけど」
(なんかもう、どこをどう突っ込んだら良いのか……。それ以前に迂闊過ぎるでしょう、私!!)
和臣の話を聞いて、額を押さえて項垂れた幸恵だったが、そのままの姿勢で了承する旨を告げた。
「分かったわ。殆ど私の落ち度だし、面倒をかけたみたいだし、それに関してはもう良いから」
「そう? それなら、あまり食欲が無いかもしれないけど、少し食べておいた方が良いよ。揃えておくから、その間に着替えて来て」
「分かったわ」
自分から頼みはしなかったものの、朝食まで準備して貰った手前、のんびりとシャワーを浴びる訳にもいかず、幸恵は着替えた上で手早く洗顔と化粧だけ済ませてリビングに戻った。
(なし崩しに、こいつのペースに嵌っている気がするのは、気のせいかしら?)
何となく釈然としない気持ちを抱えながらガラステーブルの前に正座すると、トレーでお椀や小皿を運んできた和臣が、怪訝な顔をした。
「あれ? 幸恵さん、まさかこれから出社する気?」
「平日なんだから、遅刻しても出社するわよ。当然でしょう?」
ブラウスにタイトスカート姿の幸恵が、スーツの上着を適当に椅子にかけて座ったのを見て和臣が判断したのだと分かったが、どうして休むと思ったのかと幸恵は不思議に思った。すると和臣が幸恵の目の前に皿を並べながら、幾分困った様に言い出す。
「いや、その……。幸恵さんがなかなか起きないし、昨日色々あって疲れてるだろうから、今日は休むかなと思って。始業時間直前に、遠藤さんの携帯に君が休むからと俺から連絡を入れ」
「何ですって!? 何、勝手な事をしてるのよ!」
「やっぱり無理しないで、今日は休んだ方が良くないかな?」
「余計なお世話よ、ほっといて! 第一、あんたが私の休みの連絡を入れたりしたら、どんな邪推されるか分からないでしょうが!?」
盛大に和臣を叱りつけた幸恵は慌てて携帯に手を伸ばし、弘樹の携帯に直接電話をかけた。
「もしもし、係長ですか? 荒川ですが」
「おう、荒川どうした。ちゃんと今日は休みにしておいたぞ?」
「いえ、それはですね」
挨拶もそこそこに弁解しようとした幸恵だったが、弘樹が呆れ気味の声が返ってくる。
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