第1章

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「しかし荒川。君島さんと部屋で二人仲良くまったりしてるって時に、上司に電話してくるなよ。幾ら仕事が気になるからって、相変わらず無粋な鉄の女だな~。君島さんの男の機敏ってものを、少しは汲んでやれよ。いい加減捨てられるぞ?」  そこで溜め息の気配まで伝わってきた為、幸恵の忍耐力は呆気なく尽きた。 「誰と誰が『仲良くまったり』なんですかっ!? 遅刻ですが午前中には出社しますので! それでは失礼しますっ!!」  そして力一杯ボタンを押して通話を終わらせてから、幸恵は引き攣った顔を和臣に向けた。 「……一体、係長に何を言ったの」 「一応、現状説明として『今、幸恵さんのマンションに居ますが、彼女が起きそうにないし起こすのも可哀相なので、今日は有休にさせてあげて下さい』と連絡を入れたけど」  それを聞いた幸恵は、思わず呻き声を上げた。 「……絶対わざとよね?」  幸恵が恨みがましい視線を向けると、和臣はそれに困惑気味に応じた。 「誓って、真面目に対応したつもりだったんだけど……。結果的に誤解が生じたみたいだね。悪かった」 「勝手に他人の職場に連絡しないで! それ以前に起こしなさいよ!」 「今度はそうするよ。冷めるから取り敢えず食べて」 「食べるけど、二度目は無いから!!」  泣き叫びたいのを必死に堪えつつ、幸恵はおとなしくレンゲを取り上げた。そして時折付け合わせのおかずに手を伸ばし、絶妙な淹れ加減のお茶を飲みながら、黙々とお粥を食べ続ける。 (全く……、お粥の味付けと塩加減が絶妙で美味しいのが、余計しゃくに障るわ。このセロリと人参の浅漬けもなかなか……)  既に食べ終えていたのか、自分が食べる姿を向かい側から微笑んで見守っている和臣の姿に何となく落ち着かない気分になった幸恵は、半ば無理やり話題を探して話しかけた。 「普段、料理はするの?」 「え? ああ、大学入学と同時に東京で一人暮らしを始めたから、それなりに。高三の時、『身の回りの事を一通りできる様にならなければ、一人暮らしはさせません』と母から厳命が下って、受験勉強そっちのけで家事一般を叩き込まれたんだ。『余所は余所、うちはうち』って事は十分理解していたけど、勉強だけさせて貰える家が、もの凄く羨ましかったな……」  思わず遠い目をして当時を思い返しているらしい和臣を見て、幸恵は半ば呆れながら感想を述べた。
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