第1章

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「荒川の伯父さんの家。この前電話で幸恵さんが『大晦日に実家に帰る』って言うから、『じゃあ俺も正敏さんに誘われてるから、今年は広島に帰らないで一緒にお邪魔しようかな』って言っただろう? そうしたら『一緒に行くなら荷物持ちよ』って快諾してくれたから、伯父さんの家に泊めて貰える様に、電話でお願いしておいんだ。ひょっとして忘れてた? 幸恵さんその電話の時ビールを飲んでるって言ってたし、酔ってる感じだったから」  飄々とそんな事を言ってのけられ、幸恵は額に手をやって項垂れた。 「……良く覚えてないわ。それに快諾なんかしていないと思うけど?」 「まあ、そう言わずに。まだ荷造りが終わって無いなら手伝うよ?」  そこで幸恵は、下着などがまだ完全に詰め終わっていない荷物の事を思い出した。 「そんな事良いわよ! それに荷造りって言っても二泊なんだから! ちょっと詰め込んで終わりよ。取り敢えず入って、ちょっと待ってて!」 「分かった。お邪魔します」  外で待たせるのもどうかと思った幸恵は取り敢えず和臣を中に入れ、自分は寝室に飛び込んだ。そして慌てて荷造りを終わらせる。 (何で、いきなりこんな事態に……。そう言えば確かに缶ビールを飲みながら電話を受けて、何か年末の予定を聞かれた様な気がしないでもないけど……)  幸恵は(家でもお酒を飲んでいる時は、あいつからの電話に出ないようにしよう)と決意を新たにしながらキャリーバッグのファスナーを閉め、そのままの姿勢で愚痴を零した。 「……最近、迂闊過ぎる事ばっかりだわ」  それから二人は一緒に電車を乗り継いで幸恵の実家へと向かったが、宣言通り和臣が幸恵のキャリーバッグの上に自分のボストンを置いて引きながら歩いた。流石に荷物を持って貰って知らん振りも出来ず、和臣が振ってくる話題に笑顔で応じながら、幸恵は密かに悩んでいた。 (うぅ……、チャンスと言えばチャンスだけど、さり気なく聞けないわ。真っ正直に聞いたら『そんなに気を遣わなくて良いから』って断られるか、『そんなに気にしてるなら、代わりに俺の頼みを聞いてくれないかな?』とか言って無理難題をふっかけられそうで)  そんなこんなで並んで座っている和臣の横顔を何となく黙って凝視していると、視線を感じたらしい和臣が幸恵の方に顔を向けて、軽く笑いながら尋ねてきた。
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