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美味しいトマトは水に沈むと聞いた事がある。でも僕は、海にプカプカと浮いていた。
『糖度が低いのか? いや、そんな事を言ってる場合じゃない』
漫画の様な手足をバタバタさせるが、一向に岸へと近づかない。
『どうしよう?』
途方に暮れていると、海中から恐ろしい影が迫る。
『……ん? タコ!?』
気づいた時にはタコの足に捕まっていた。
脱出不可能。
DEAD OR DEAD
トマトは死の淵で考えた。
アニメの中では、転生された勇者は必ずと言っていいほど運命的な出会いを果たす。
このタコも、誰かが転生したのかも知れない。
キュウリに転生した人だっていた。そんな奇跡だって大いに有り得る。
最後の力を振り絞って言葉を放った。
『……君も転生したのかい? ……僕はトマトに転生したんだ……僕達は仲間だ。……だから一緒に……運命と戦わないか?』
……
……
返事が無い。
ただのタコだ。
『……もう駄目だ。美紀ちゃん……一目会いたかった……』
力無くうなだれているトマトを見たタコは、急に足を振り回して岸の方へとブン投げた。
岸の寸前へと着水するトマト。
『……危なかった。岸にぶつかったら爆ぜていた』
またもや九死に一生を得て、必死に岸へと這い上がる。
海の水分と塩気を纏ったトマトの体は、とても美味しそうに輝いていた。
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