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暗闇を走り抜けて眩い光の方へ進むと、見覚えのある光景が視界に入る。
『ここは……丸谷スーパー?』
異世界に飛ばされた可能性も考えていたが、違っていた。
どうやら箱詰めにされて、スーパーの倉庫に運ばれたトマトへと転生したらしい。
トマト視線ではいつもと違う様に見えるけど、確かにここは近所の丸谷スーパー。
ここでしか売っていない、私が漬けましたという近所のおばあさんの写真入り漬物がそれを確信させる。
『よし、会社に行って美紀ちゃんに会おう!』
僕は再び走り出した。
恐らく周りの人にはトマトが転がっている様に見えているだろう。
その時、試練が襲い掛かる。
三歳くらいの子供が僕に気づいたのだ。
とっさにキャベツの横へと身を隠す。
『ふう、何とかやり過ごせたようだな』
子供がいない事を確認しながら扉の前へ急ぐと、新たな試練が待ち構えていた。
『自動ドアが開かない』
よくよく考えれば当たり前だ。何故なら、僕はトマトだから。
絶望に打ちひしがれていると、更に悪い事が重なり、先ほど見かけた子供に捕まってしまった。
『……終わった』
子供はトマトを連持って母親の下へと走り出す。
「ママ、トマト! トマトっ!」
「あらあら、トマト食べたいの? でもこれ……お尻の部分が青いから、別のトマトにしましょうね」
こうして別のトマトと交換され、九死に一生を得た。
『……尻が……青いのか……』
そして、少しだけ心が傷ついた。
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