30人が本棚に入れています
本棚に追加
スーパーを脱出した僕はひたすら走り続ける。
しかし、トマトの体は思う様に進んでくれない。
『……はあっ、はあっ……トマトでも……疲れるんだな』
海沿いの道を走って行けば、スーパーから会社までは1時間くらい。
勿論、人間の成人男性ならばだ。
『このままでは会社に着く気がしないな。道を変えよう』
この判断は間違っていた。
トマト視線の僕は道に迷ってしまったのだ。
何処にいるのか分からない。どの方角に進めばいいのか分からない。
途方に暮れるトマト。そんなトマトの背後に影が迫る。
『誰だ!』
気配を感じて振り返ると、そこにはキュウリが立っていた。
心臓があるのか分からないけど、僕の鼓動が高まっていく。
冷静に考えれば、野菜に転生した人だっているはずだ。
バトルの予感。
トマトVSキュウリ
キュウリが距離を縮めて来る。後ずさりするトマト。
そして、キュウリは僕の体を掴んだ。
『あんたはトマトなんだね。私は気づいたらキュウリになっていたよ、はっはっは! どうしたんだい? 道にでも迷ったのかい?』
驚くほどフレンドリーなキュウリだった。
『……あの、何でキュウリになったんですか?』
『だから分からんのだよ。気づいたらなってたと言ったろ? 一ヶ月前に目を覚ましたらキュウリになってたので、食べられないように旅に出たのさ』
結局、何もわからなかった。
それどころか、一ヶ月も前にキュウリへ転生しているとすれば、腐っているのではないかという新たな疑問が浮上する。
考えても仕方がないので、キュウリに海沿いへの道を教えて貰って走り出した。
最初のコメントを投稿しよう!