1人が本棚に入れています
本棚に追加
新入生説明会にて
微妙な緊張に包まれた講堂。
そう、あの時じゃんけんにさえ負けていなければ。
目の前には大勢の人。
皆んな僕の事を値踏みする様にジロジロと見ている。
「新入生向けサークル説明会」
背中斜め上にはそんなタイトルが書かれている。
あ~あ、もう入学してから1年が経ってしまったのか。
大切な4年間の1/4。
だいたい僕は人前で話す様な人物じゃない。
誰か頭を取りたがる奴の一歩、いや二歩背後に隠れていて、チャンスがあったら一緒にゴールに駆け込むのが僕の趣味。
目立ったってロクなことは無い。常に強者の陰に潜んでいて息を潜め、おこぼれの餌が降って来るのを待っている。それが理想だ。
なのに今回は何たる"運"の悪さ。
毎年、新入生向けにサークルの代表者が自身のサークルの魅力をアピールする場。
ここで部員を確保しないと後々サークルの存続が危うくなるので重要なイベントだ。
大体、生真面目な説明会をするか、奇をてらって大騒ぎして注目を浴びるかの2つのアプローチ。
女子を確保するのも重要なミッション。今後1年が明るくなるか、ジメジメするかの瀬戸際でもある。
色々作戦を練ったもののここは出たところ勝負!
舞台の裏で順番を待つ間も前のサークルの連中のプレゼンへの反応が気にかかる。
「わー」位ならまだしも、「キャ~」と来ると心穏やかではいられない。
そうこうする内に遂に僕の順番。
(まあ、終わらないプレゼンなんて無いんだから。)
(皆んな同じ様な事を言ってるだけだし)
色々と自分を納得させる様な言葉をそらんじたが余り効果は無い。
ライトが僕を照らす。照らされている方は前にいる聴衆の顔は見えない。
ただ多くの聴衆の視線は強くかんじる。
「次は、万能スポーツサークルのテンプル・シュラインです。」
聴衆から気の入らない拍手が聞こえる。
「ア、聞こえますか?」
まあ、さっき迄前のサークルが話していたので聞こえないはずもないだろう、と自分でツッコんでどうするか。その時、頭の中に「何か」が降りてきた、気がした。
「万能スポーツサークルのテンプル・シュラインです。
我々は『万能』です。
やりたいと思ったことは何でも実現します。
そこのお嬢さん。お綺麗ですね。でももっと綺麗になれます。
『私』を信じて下さい。
誰でも人には言えないちょっとした希望があると思います。
我々はそれを実現します。
そこのお兄さん、今思った事を実現します。
『私』を信じて下さい。」
最初のコメントを投稿しよう!