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パトカーホイホイ
「皆さん、私を信じて下さい。」
何かの力に引き出される様に、そう声を発していた。
「我々は『万能』です。」
突然響く銅鑼の音。
この音に引き出されるかの様に、僕はまた口を開いていた。
「皆さん。駅前の交番に警察官が居ないのは何故でしょうか?
何かあったり、道に迷っている人達が聞く人が居ないと、問題になっています。
そんな時、警察官達は近くの踏切や、見通しの悪いカーブの先で「待ち伏せ」をしています。
何故か?
反則金を徴収する為です。
一体、警察官の仕事とは何でしょうか?
そう、我々一般市民を危難から救ったり、社会正義に反する輩を排除することのはずです。
先ずはそうした彼らの義務を全うして余力が有れば交通法規違反を取り締まれば良いはずです。こんなことをしているパトカーなんかゴキブリと一緒。
皆さんもそう思いませんか?」
再度、大きな銅鑼の音がしたところで僕の意識は飛んだ。
次に気がついた時には目の前に大きな液晶テレビが鎮座していた。
画面はニュースをやっていて、どこかに外からの中継のようだ。
「こちら現場です。
ご覧のように、多くのパトカーが大きな箱の中で動けなくなっています。」
「どういうことでしょうか?」
「警察署の駐車場に入るところに大きなゲートの様な物があり、その中の底に強力な接着剤の様な物が巻かれていて、通過しようとしたパトカーが動けなくなり、
そのパトカーを助けようとして引き続きその箱に入ったパトカーが次ぐ次と
捕らわれてしまったようです。」
画面がアップになり信じられない様な風景が映し出されていた。
そしてアップにされたその箱の横には「パトカーホイホイ テンプル・シュライン」の文字。
・・・・
まさか?
その時背後から誰かが近づいて来てこう告げた。
「教祖様。お時間です。」
今日そう? 競争?
(えっつ! 教祖?)
「はい、有難い御講話のお時間です。
皆な教祖様をお待ち申し上げています。」
その時、またあの銅鑼の音。
目の前にはまたしても暗闇の中で息を殺してこちらを見ている沢山の視線。
スポットが当てられて益々前が見えなくなる。
「皆さん、私を信じて下さい。
我々は『万能』です。」
口を突いてそんな言葉が自然に出て来る。
「今回はご苦労様でした。」
背後のスクリーンに先程の「事故現場」が映る。
「我々は我々の『善』を世の中に示してあげました。」
再び響き渡る銅鑼。
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