鰻とマグロ

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鰻とマグロ

「皆さん、鰻やクロマグロが我々の食欲の為にこの世から消えようとしています。 何で彼らが我々人類の犠牲になって滅亡しなければならないのでしょう? あなた達は本当に『土用の丑の日』に鰻を食べたいですか? 回転寿司屋でマグロがでてこないと困りますか? 土用の丑の日の日に鰻を食べたら良いなんて江戸時代に平賀源内が言い出しただけで『単なる駄洒落』。 マグロだって江戸時代は庶民しか食べない代物。 皆さん、おどらされてはダメです。」 再度、大きな銅鑼の音がして暗転。 再び液晶テレビに映し出されるニュース画像。 「全国の鰻養殖池から鰻が一匹残らず盗まれるという事件が発生しています。 そしてそれらの鰻が全国中の河川で発見されています。 まさに川はヌルヌルの鰻で一杯です。」 カメラは眼下の河川を映す。 そこには水面から溢れんばかりの鰻がニョロニョロとのたうち回っている。 そしてその護岸には「土曜の憂姿の日。 テンプル・シュライン」ののぼり旗。 「ここで専門家のご意見を伺ってみましょう。 宇奈義先生これはどういったことでしょうか? また生態系への影響は如何でしょうか?」 メガネに口髭を生やした老人にカメラが向けられた。 「理由は分かりませんが、鰻が自力で養殖池から逃げ出せるとは思いませんので、誰か人間の仕業でしょう。 それにしても無茶としか言いようが無い。 養殖されている鰻の稚魚であるシラスは近年中国やヨーロッパ産の別の種類のものが入って来ています。 それが河川に溢れかえってしまったのですから、交雑が進んで純日本産の鰻が絶滅してしまいます。」
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