誰か助けて!

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誰か助けて!

「教祖様。有難い御講話のお時間です。」 その時、またあの銅鑼の音。 目の前にはまたしても暗闇の中で息を殺してこちらを見ている沢山の視線。 スポットライトがいつもの様に眩しく一人ひとりの顔は見えない。 「皆さん、私を信じて下さい。 我々は『万能』です。今回もご苦労様でした。」 考えることなくそんな言葉が自然とでる。 「我々は我々の『善』を世の中に示してあげました。」 再び響き渡る銅鑼。 ところがその銅鑼の音に混じって聞こえるサイレンの音。 あらゆる方向から聞こえてきて、あっという間にサイレンの音に包まれてしまった様だ。 と、拡声器から大きな声。 「テンプル・シュラインに告ぐ。我々は警察だ。 諸君は既に我々に包囲されている。 抵抗することなく一人ずつ両手を上に挙げて出てきなさい。」 目の前で狼狽して泣き叫ぶ者。 祈りの呪文を唱える者。 すっかりとパニックとなっている。 その時、目の前の群集の中からその中の一人が叫んだ。 「教祖様。あなたは万能なのでしょう。我々は信じています。ですから我々を助けてください。」 (そんなことを言ったって、こちらこそ知らない間にこんな所に連れてこられて。訳の分からないことに巻き込まれて) 「どうなっているんだ。 早くあの場所に戻してくれ。」 その声をかき消すように警官隊が突入しようと壁を壊そうとする音が鳴り響く。 「教祖。そこにいるのは分かっている。 無駄な抵抗をすると、こちらも強硬手段に出ざるを得ないぞ。 皆に投降するように指示しなさい。」 拡声器からの声は僕を標的にがなり立てる。 前の暗い所にいる人々は口々に叫び始めた。 「教祖様。どうか我々をお助けください。」 「違うんだ。助けて欲しいのはこちらの方だ。」 「教祖様。万能の力をお示しください。」 「我々をお助けください。」 「皆な、待ってくれ助けて欲しいのは僕の方だ。」 突入する警官と揉み合う信者の音。そこに鳴り響く銅鑼の音。 しかし、今回は暗転することなく、銅鑼は鳴り続ける。 「誰か。誰か助けて!」
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