新入生説明会にて

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

新入生説明会にて

微妙な緊張に包まれた講堂。 そう、あの時じゃんけんにさえ負けていなければ。 目の前には大勢の人。 皆んな僕の事を値踏みする様にジロジロと見ている。 「新入生向けサークル説明会」 背中斜め上にはそんなタイトルが書かれている。 あ~あ、もう入学してから1年が経ってしまったのか。 大切な4年間の1/4。 だいたい僕は人前で話す様な人物じゃない。 誰か頭を取りたがる奴の一歩、いや二歩背後に隠れていて、チャンスがあったら一緒にゴールに駆け込むのが僕の趣味。 目立ったってロクなことは無い。常に強者の陰に潜んでいて息を潜め、おこぼれの餌が降って来るのを待っている。それが理想だ。 なのに今回は何たる"運"の悪さ。 毎年、新入生向けにサークルの代表者が自身のサークルの魅力をアピールする場。 ここで部員を確保しないと後々サークルの存続が危うくなるので重要なイベントだ。 大体、生真面目な説明会をするか、奇をてらって大騒ぎして注目を浴びるかの2つのアプローチ。 女子を確保するのも重要なミッション。今後1年が明るくなるか、ジメジメするかの瀬戸際でもある。 色々作戦を練ったもののここは出たところ勝負! 舞台の裏で順番を待つ間も前のサークルの連中のプレゼンへの反応が気にかかる。 「わー」位ならまだしも、「キャ~」と来ると心穏やかではいられない。 そうこうする内に遂に僕の順番。 (まあ、終わらないプレゼンなんて無いんだから。) (皆んな同じ様な事を言ってるだけだし) 色々と自分を納得させる様な言葉をそらんじたが余り効果は無い。 ライトが僕を照らす。照らされている方は前にいる聴衆の顔は見えない。 ただ多くの聴衆の視線は強くかんじる。 「次は、万能スポーツサークルのテンプル・シュラインです。」 聴衆から気の入らない拍手が聞こえる。 「ア、聞こえますか?」 まあ、さっき迄前のサークルが話していたので聞こえないはずもないだろう、と自分でツッコんでどうするか。その時、頭の中に「何か」が降りてきた、気がした。 「万能スポーツサークルのテンプル・シュラインです。 我々は『万能』です。 やりたいと思ったことは何でも実現します。 そこのお嬢さん。お綺麗ですね。でももっと綺麗になれます。 『私』を信じて下さい。 誰でも人には言えないちょっとした希望があると思います。 我々はそれを実現します。 そこのお兄さん、今思った事を実現します。 『私』を信じて下さい。」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!