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***
犬塚さんに連れられて、私は自分が死んだ事故現場に来ていた。
道路の脇には、花束が手向けられていた。
私の両親が置いてくれたものだろうか。
「こっちだよ」
さらにそこから5分程歩き、近くにある公園に着いた。
もうすっかり日も暮れて、辺りは真っ暗だった。
すぐに違和感に気付く。
夜だからという意味ではなく、公園全体が深い闇に包まれていた。
空気が重々しい。
公園の奥へと進んでいく度に、空気がビリビリと私の身体を刺激した。
そして公園全体のほぼ中央地点に、それはいた。
人のような、二足歩行の何かが。
「彼女が、僕の友人の帆乃夏だ」
「うっ……」
犬塚さんに「帆乃夏」と紹介されたそれは、首から上は何もない。
その代わりに、右足の膝の部分に顔のようなものがくっついている。
口と鼻と耳はかろうじてその部分に確認できたが、“目”だけはどこにも見当たらなかった。
目の前の奇怪な光景に、声を震わせながら犬塚さんに確認する。
「犬塚さん……。これは一体……」
「帆乃夏は君が助けようとした男の子、つまり彼女の息子が亡くなった時、あまりのショックで自殺してしまったんだ。女手一つで育ててきた自分の息子が死んでしまったという現実を受け止めることができなかったんだ」
「じゃあこれは、帆乃夏さんのなれの果て……」
「そうだ。そして死んだ今でも、息子を探しに生前よく遊びに来ていたこの公園を彷徨い続けている。彼女の顔が足の方まで下りているのは、まだ小さい息子を探そうとする意志の強さからだ。そして息子を見つける肝心の“目”は、おそらく彼女の身体以外の場所にあるだろう」
何て、哀しい話なのだろう。
帆乃夏さんは子供の死を受け入れられずに自殺し、その事実を受け入れられないまま見つかるはずのない子供をこれからも永遠と探し続けるというのか。
こんな姿になってまで……。
「僕の声はもう彼女に届かない。でも君は違う。ひどいことを言ってすまないが、君は彼女と同じ世界の住人だ。そして何より、君は彼女の息子を助けようとした張本人だ」
こんな私にも、まだできることがあるのだろうか。
「頼む……! 彼女を救ってあげてくれ……!」
「……わかった。何ができるかは分からないけど、今の私にできることをやってみる」
私は決意を固め、ゆっくりと帆乃夏さんのもとへ歩み寄っていった。
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