二.秋の始まり。

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   ゆかりさんと晶子さんの噂話に花が咲いているうちに作務衣に着替える。海堂旅館は、おかみは着物で仲居はあずき色の作務衣に紺色のエプロンを腰に巻くという決まりである。 「あれ、風でクセがついちゃっている」  ロッカーにある鏡を見ると、前髪に変なクセが付いていることに気づいた。後ろ髪も少しだけはねている。短い髪は楽だけど、風でクセがついてしまうのが難点だ。 「ピンで留めてみたら? 貸してあげるよ」 「いいんですか? ありがとうございます」 「いいよこのくらい。あっ、そういえば若女将が事務室に来てほしいって言っていたよ」 「分かりました、今からすぐに行きます」  ゆかりさんからヘアピンを受け取り、前髪を留めながら事務室へと移動する。事務室は更衣室を出て右に曲がったところにある。近くには調理場があり、今はちょうど夕食の仕込みをしているようだ。  
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