九.空色のネックレス。

25/25
前へ
/336ページ
次へ
 日が暮れる前に三人は家に帰った。家に帰るとほたるはすぐに、母親に授業参観のプリントを見せようとした。 「ママ、これ――」 「――私は旅館の仕事で忙しいの。学校のことはパパか優子さんに話しておいて」  母親はやっぱりほたるを冷たくあしらった。プリントを受け取らず、ほたるの言葉すら待たずに、目の前に厚い壁を作り上げる。 「そうだよね、分かった。優子さんに話してみる」  ほたるはすぐに母親から離れ、二階にある自分の部屋へと駆け込んだ。勉強机の上に捨てるように置かれたプリント。両手で持っていた部分は、手に力が入っていたのかぐっしゃりとしている。 「やっぱり今日も、ママとうまく話せなかったなぁ」  ほたるの独り言は、真っ暗な天井に吸い込まれるようにして消えた。  そして、今日も彼女は、周りに聞こえないように泣くんだ。
/336ページ

最初のコメントを投稿しよう!

223人が本棚に入れています
本棚に追加