二.秋の始まり。

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「よっ、陽咲ちゃん。お腹すいてない?」 「大輔さん、おはようございます! ここにいるといい匂いがしてお腹が鳴りそうです」 「そうだろうなぁ。じゃあこれあげるよ。俺が握ったんだぜ」  調理場から話しかけてきたのは板前見習いの大輔さんだ。澄ノ島で育ち、この春、高校卒業と同時に板長さんに弟子入りして今に至る。昔はいろんな髪型をしていたけれど、今は修行中の身であるからか坊主頭である。  大輔さんが手渡して来たのはラップに包まれたおにぎりだった。真っ白なご飯が三角に握られているだけで海苔も巻いていない。 「このおにぎり、味ついているんです?」 「当たり前だろ。後で食べてみたら分かるさ。……ところでさ、最近は病院に行った?」  大輔さんの神妙な顔つきを見ただけで、私は彼の聞きたいことに気が付く。
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