十一.中学校。

15/17
前へ
/336ページ
次へ
「……そう」  母親は背中を向けたままだった。振り向こうとする様子は全くなかった。機械的で短い返事。  もっと他に言葉はないの? おめでとう、その一言だけでいいのに。それだけでほたるは、飛び上がるように嬉しいはずなのに。 「女将、他に言うことはないんですか。ほたるちゃん、勉強すごく頑張ったんですよ? 中でも英語は将来旅館で役に立つからって言って……」 「優子さん、いいの。ほたるは別に――」 「――旅館で働く意思があるのなら、まず自分の呼び方から変えなさい。幼稚でみっともない」 「女将! 今言うべきことはそんな事じゃないでしょう」  優子さんが、ほたるのために女将に意見している。ずっとほたるを傍で見守っていたからこそ、この母親の態度が許せないのだろう。僕も同じ気持ちだ。どうしても報われない彼女が可哀想で、辛くて、悲しみが怒りに変わっていく。
/336ページ

最初のコメントを投稿しよう!

223人が本棚に入れています
本棚に追加