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「……そう」
母親は背中を向けたままだった。振り向こうとする様子は全くなかった。機械的で短い返事。
もっと他に言葉はないの? おめでとう、その一言だけでいいのに。それだけでほたるは、飛び上がるように嬉しいはずなのに。
「女将、他に言うことはないんですか。ほたるちゃん、勉強すごく頑張ったんですよ? 中でも英語は将来旅館で役に立つからって言って……」
「優子さん、いいの。ほたるは別に――」
「――旅館で働く意思があるのなら、まず自分の呼び方から変えなさい。幼稚でみっともない」
「女将! 今言うべきことはそんな事じゃないでしょう」
優子さんが、ほたるのために女将に意見している。ずっとほたるを傍で見守っていたからこそ、この母親の態度が許せないのだろう。僕も同じ気持ちだ。どうしても報われない彼女が可哀想で、辛くて、悲しみが怒りに変わっていく。
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