十四.別れの日。

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 調理場の近くまで行くと、事務室の明かりがまだついていることに気付いた。女将か優子さんがまだ仕事をしているのかもしれない。  ほたるはそう思ったのか、調理場を通り過ぎて、事務室へと近づく。 「――私、もう限界だわ。兄さんからも義姉さんにちゃんと話してよ」 「お前に言われなくても、何度も言っているよ。でもアイツ、全く耳を貸そうとしない」  部屋から聞こえたのは、優子さんと板長であるほたるの父親の声だった。優子さんの声はいつもより低く、吐き捨てるような口調だ。 「もっとちゃんと話してよ。夫婦でしょ。ほたるちゃんは、貴方たちの娘でしょ? もっとちゃんと見てあげてよ。ほたるちゃんが風邪を引くなんてめったにないのに、こんな時だってあの人は何もしようとしない」
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