一.天使が落ちた夜。

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「ほたる、危ないからこっちにおいでよ」 「……ごめん」 「どうして謝るの? 謝るなら、こっちに戻ってきてからにして」  こんな光景を目にして動揺しないわけがない。まだ十五年しか生きていないけど、ほたるが今何をしようとしているかくらいは分かる。  大切な幼馴染が、目の前で、自ら命を絶とうとしている。その現実を急に突きつけられて普通は冷静でいられるわけがない。  でも、もし私が興奮してしまったら、ほたるにもそれが移ってしまうかもしれない。感情的になってしまったら、彼女はフェンスからその手を離してしまうかもしれない。  そう考えれば考えるほど不思議と冷静になれた。いや、正確には冷静なふりをしているのだと思う。
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