一.天使が落ちた夜。

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   私は少しずつ、ゆっくりと一歩一歩ほたるへと近づいていく。近づいていることを悟られないように、ゆっくりと。 「ほたる、そんな薄着で外にいたら風邪引いちゃうよ」  風が冷たい。ナイフのように頬に刺さっていく。日本海に面しているこの島は気候が厳しく、三月でもまだ冬用のコートが手放せないほどに寒い。  そんな気候の中、ほたるは白い長袖のワンピースしか身に纏っていない。 ……その服装もまた、彼女の決意を物語っているように見えた。 「陽咲ちゃん。私ね、最初に見つけてくれるのは絶対に陽咲ちゃんだって思っていたよ。パパでもママでも……駆くんでもなく、ね」  彼女はさらにこう続けた。 「それはきっと、私が最後に会いたかったのが陽咲ちゃんだったからだと思うんだ」 「ほたる、どうして最後だな――」 「――今まで一緒にいてくれてありがとう」  
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