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この世界を彩る全ての色が消え、目の前が真っ暗になった。
真っ黒の世界で、ほたるだけが光を放っているように見えた。私の視界はほたるだけをとらえた。ワンピースをなびかせて、風に身をまかせ、地へと落ちていく。
ああ、この瞬間も、彼女はやっぱり美しい。少なくとも、十五年生きた私の世界の中で一番美しくて、きれいだ。
けれど、彼女は天使ではなかった。
島の人たちは今の今まで、彼女を間違って認識していたのだ。
〈あの娘はまるで空から舞い降りた天使のようだ〉
彼女は天使なんかではなかった。ただの美しい少女だった。
もし彼女が天使なら、その背中から白い羽根が生えていたはずだろう。その羽で空を舞って、どこにだって飛び立っていけただろう。
――もう死んでしまいたい、と思ってしまうようなこの世界から。
――いつだって逃げることが出来たはずなんだ。
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