怪談DJ『残 留 物』

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「でもねぇ。相手が越してちゃったんなら連絡寄越す訳なんかないし、もしも住んでる人なら、余計に名乗りでないよねぇ。処分するお金が惜しくて、こんな所に放置してるんだから」 それでも『管理会社が知っている』と主張するだけでも、今後に違いが出るだろう。 私はソレを放っておいて、自宅へと戻った。 張り紙がされてから数日。 誰も名乗り出ることもなく、冷蔵庫はそこにあり続けている。どうして撤去しないのかと不思議に思っていたら、ゴミ出しの時に顔を合わせた別棟の奥さんが教えてくれた。 「あれね、撤去するにもお金がかかるじゃない? 管理会社の方では負担しないんですって。居住者全員から徴収して、そのお金で処分するって事になるみたいでね。そうすると、居住者全員の了解を得ないとダメでしょ? 嫌がる人だっている訳よ。そりゃそうよね、他の人達には関係ない話なんだもの。どうして勝手に放置していった人の尻拭いを、今住んでいる人達が負担しなくちゃいけないのかって揉めてるらしくて」 確かにそれは納得いかない。 以前にアパートの駐車場で住民の車が次々とパンクさせられる事件があったんだけど、その際に「監視カメラをつけてほしい」って要望だって、実現するまでにかなりの時間を要した。 「当分、あのままなんじゃないのかしら」 奥さんと顔を見合わせて、思わずため息をついてしまった。 「小さい子達が駐車場で遊ぶこともあるし、倒れてきたりしたら怖いわよね」 「そうですね。何かの拍子に、小さい子が中に入ったりしたら大変な事になってしまうし」 「本当よね。それに……」 奥さんはそこで声を潜めて、私にそっと囁いた。 「あの冷蔵庫、なんだか嫌な感じがするのよ。何がって言われると困るんだけど、なんとなく嫌な感じがするの」 私は奥さんの言葉にギョッとした。まさに自分が感じているのと同じ「何か」を、他にも感じている人がいたなんて。 「……早く処分してもらえると、いいんですけどね」 「……ね」 最後の方は誰かに聞かれるのを恐れるように、2人とも小声になっていた。 「気持ち悪い」という思いで見ているせいか、駐車場の片隅にある「ただの冷蔵庫」が非常に忌まわしいモノであるように感じられてしまう。気にしないようにしようと思っても、窓から見える位置にあるその物体は強制的に視線を惹きつける。私は日常生活の中で、意識してソレを見ないようにしていた。
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