怪談DJ『残 留 物』

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久しぶりに残業で遅くなったある日。色々とトラブルが重なって、私はいつもより精神的に疲れていた。 駐車場に車を停め、重たい体を引きずり出すようにして地面に足をついた。薄ぼんやりとした電灯に照らされた見慣れた駐車場で、私は違和感に気がつく。何も変わらない、砂利を敷かれた駐車場。居住者の自家用車が並び、アパートの階段に設置された電灯と、各部屋から漏れる明かりに鈍く車体を光らせている。誰がいるわけでもない。見知らぬ車がある訳でもない。何がそんなに私の神経に障るのか。 モヤモヤしながら駐車場を横切って自宅のある棟へ向かい……私はハッとして振り向いた。 冷蔵庫が──私の肩までの高さしかない小型の冷蔵庫が動いている。今朝までは駐車場を囲むフェンスに扉を向け、こちらからはアルミで覆われた背面しか見えなかったはずだ。それが今は、扉をこちらに向けている。 昼間、ここで遊んでいた子供達が動かしたのだろうか? 誰かのイタズラなのか? おそらく中身は空っぽなのだろうが、それでも子供の力で動かせるものなのだろうか? 数秒、向きを変えた冷蔵庫を凝視していたが、うなじの毛が逆立つような悪寒を覚えて足早にその場を去った。いつもなら、部屋の窓を開けて空気の入れ替えをするのだが、そんな気にもならない。窓から見える長方形の物体が視界に入る事を考えるだけでも嫌だった。 その日は早目に布団に入ったが、外から何度も冷蔵庫のドアが開閉する独特の音が聞こえてきた気がした。 それからも奇妙な事は続いた。 翌日、出勤しようとした私は、お隣の旦那さんが冷蔵庫を動かそうとしているのに出くわした。 「おはようございます」 「あ、ああ、おはようございます」 「手伝いますよ」 やはり大人の男性でも、1人でコレを動かすのは大変らしい。 「まったく、子供でも入り込んだらどうするつもりなんだ」 旦那さんは力を入れながら毒づいた。考える事は同じだ。過去に何度も同じような痛ましい事故があった事をニュースなどで見知っている私はも、一刻も早く処分して欲しいと頷いた。 「中は確認されたんですか?」 さり気なく尋ねれば、旦那さんは「もちろん」と答える。 「万が一の事があるからね」 そう言っているうちに、お隣の奥さんもやってきた。その手にはガムテームが握られている。
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