怪談DJ『残 留 物』

5/7
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「こんなモノが放置されていると気になっちゃうわよね。気休めかもしれないけど、これで少しは安心できるでしょ」 とドア部分に数ヶ所ガムテープを貼り付ける。 フェンス側にドアをぴったりとくっつけたのを確認して、私とお隣の旦那さんは車に乗り込み出勤した。 しかし仕事から帰ってくると冷蔵庫はまたしても向きを変え、しかもしっかりと止められたはずのガムテープは剥がされている。イタズラにしてもたちが悪い。側面に貼り付いたままになっていたガムテープをドアにしっかりと貼り付け、逃げるように冷蔵庫に背を向けた。駐車場の敷地から出ようとしたその時、背後から「ベリリリ……」というかすかな音がした。 まさか、ね。 振り向きたくなる衝動を抑え、私は自宅への階段を駆け上がった。 何度もガムテープが貼り直され、時には全面にグルグルと巻き付けられたが、住民の気持ちを逆撫でするようにそのことごとくが剥がれ落ちた。一度などは、クシャクシャになったガムテープが冷蔵庫の周辺にトグロを巻いていたこともある。 次第に他の居住者も気味悪がるようになり、管理会社へも何度も連絡が入ったようだ。しかし担当者の返答は芳しくなく、こちらで勝手に処分することは出来ないというばかり。いっそのこと、リサイクル料金を負担してでもこの不気味な冷蔵庫を処分してもらおうかという話が出始めた頃だった。 珍しく暗くなる前に仕事から帰宅した私は、車から降りた瞬間に嫌なモノを見てしまった。件の冷蔵庫のドアがパックリと口を開いている。辺りには引き千切られたかのようなガムテープの残骸。夕焼けに照らし出された冷蔵庫の内部は思った通り空っぽで、放置されてから随分経っているというのに正体不明の液体でヌラヌラと光っていた。しかも鼻をつく異臭が周辺に漂っている。 「これは……」 私は恐る恐る冷蔵庫に近づき、そのドアを閉じようとした。そうする事で少しは異臭が治まるかと思ったのだ。バッグの中からティッシュを取り出し、今にもドアが噛み付いてくるのではないかと思うほどの臆病さで手を伸ばし、ちょっと力を入れてドアを閉じた。パッキンが本体に触れようとする瞬間、柔らかいモノに当たった感触が伝わり、そのままドアが動かなくなってしまった。力を込めても弾力のある「なにか」に阻まれて、キチンと閉めることが出来ない。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!