雨宿り

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雨宿り

駅ビルを出たら、外は雨 すぐに止むかもしれないと 空を見上げる人達に混ざって 暫しの雨宿り そして今 そんな私の隣に立った背の高い男性 彼は朝、時々ホームで見かける人 ちょっとカッコいいなといつも思っていた 初めて彼を見かけてから随分経つけれど 帰りに会うのは初めてのこと この雨に立ち往生して、何人もの人が 雨宿りをしているというのに 隣に立っているなんて なんて偶然なんだろう 「止みそうにないですね」 声を掛けたら あなたは驚く? 困った者同士の親近感からか あちこちで見知らぬ相手と 愚痴を零し合う声がする 今なら話しかけるチャンスに思えた 勇気を出して さあ、ほら、頑張れ私! 「あの……」 自分を鼓舞して口を開いた時 「お帰りなさい」 柔らかな優しい声が聞こえた 小走りで近付く綺麗な女性の その手には、二本の傘 隣の彼は彼女の元へ 赤と黒のお揃いの傘が並んで遠ざかって行く そして…… 私は口を閉じる 言いかけた言葉は 雨音に融けていった
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