1人が本棚に入れています
本棚に追加
窓の外は、夏モードの太陽が燃えるように輝いていた。帰宅したばかりで汗だくの身のぼくは心頭滅却を試みる。けれど、怒りの炎を涼しく感じる寛大さは得られなかった。
もういても立ってもいられない事態である。ぼくは急いで階段を駆けあがり、『えみりの部屋』と書かれたドアをノックもせず乱暴に開け放つ。
大きなぬいぐるみやら好きなアイドルのポスターやらが飾られている、女の子女の子している六畳間の部屋。以前プロレスごっこをした忌まわしい記憶が脳裏をよぎり、一瞬だけ足がすくむ。しかしまわれ右はできない。これは兄の威厳に関わるのだ。ここで見逃せば、一生あいつの思うつぼである。
妹の絵美里はベッドの端に腰かけ、スマホをいじくっていた。どうやらパズルゲームに夢中になっているらしい。
だからなのか、あるいは影が薄いのか。ぼくの存在に気づいたのは、ぼくが絵美里の前に立ってからだった。
「うわっ、お兄ちゃん!?」
目を丸くさせ、絵美里はワッと声をあげた。その手からするりとスマホが落ちる。条件反射的に、ぼくは腕を伸ばす。
そのとき。
最初のコメントを投稿しよう!