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「ああー! もー、お兄ちゃんのバカァ! あとちょっとでクリアできたのにー!」
咆哮を響かせ、絵美里の片足が疾風のごとく跳ねる。
この動作は……ハイキックを決めるつもりか! ぼくは瞬時に判断し、とっさに伸ばしていた手で、絵美里のひざをわしづかみにしてやった。
この行動は予想外だったらしく、絵美里の表情が険しくなる。ただ、これで油断するのは早計だ。すぐさま空いた方の足で反撃に移ろうとする絵美里。けど、甘い。ぼくだって伊達におまえの兄をしているわけじゃない。
「おりゃっ!」
ぼくは腕に渾身の力を入れ、つかんでいる絵美里の片足を勢いよくすくう。絵美里の体躯がたちまちバランスを崩す。ベッドの上にどさりと大の字になった。
「く。なかなかやるね、お兄ちゃん」
悔しそうに眉をしかめ、絵美里がぼくをにらむ。
「ふっ。そう何度もやられてたまるか」
密かに勝利の余韻を味わいつつ、ぼくはここぞとばかり威張り散らす。兄が妹を打ち負かして喜ぶ光景は、さぞ情けないだろう。それでも、ぼくは天にものぼりそうな心地で舞いあがっていた。
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