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そらから5分も経ってないけど、不安な待ち時間は心地が悪いもの。
彼女は心地が悪いどころか辛いくらいだろう。
数回、レッスンが重なっただけの私の勝手な印象では声色も豊富で役を捉える直感力もあって、とても声優向きな人。
身なりも研究生らしく動き易さは基本として押え、清潔感と少しの大人っぽさを感じさせる。
多分、事務所も推していくつもり一人だと思う。
だからこそ、本人は辛いだろうと察します。
昨日、練習し過ぎたのだろうか? 意外と緊張して喉が閉まってしまったのだろうか?
何より、ライバルとして名乗りをあげなくてはならない私が心配してしまうのが彼女の魅力、人としての底深さ。
それに比べて私はたまたま空いてた人だし……、
そんな事を考えているとマネージャーさんが引き締まった表情で戻ってきた。
「玉伊、行けるか?」
「はい」
てっきり彼女に言葉をかけるのかと思って油断していた私は名前を呼ばれて反射的に返事をした。
けど、私が何を?
「羽波は少し待っててくれ」
彼女は頷いた。
「じゃあ、行くぞ」
「はい」
私は状況整理が追い付かないまま、ある意味の戦場へ導かれた。
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