10/111
前へ
/111ページ
次へ
 だいたいひとりで寺を訪れている男性は、立派な一眼レフをぶら下げている印象だ。それなら智徳みたいなひとがひとりでいても違和感がなさそうだ。だが、実際は想像とちがった。 「ああ……スマホでちょっと撮るくらいですね……びっくりするくらい、写真のセンスがないんですよ」  なんだか目に浮かぶようで、思わず吹き出してしまった。とにかくそんな話をしていたから、自然と神社仏閣を詣でながら、散策することになったのだ。  当日はお昼少し前にターミナル駅で待ち合わせをして新幹線に乗った。 「本当に車でなくてよかったんですか?」 「たまには新幹線もいいもんだし。それにグリーン車だから快適だもん。全然かまわないですよ」  智徳がビールを差し出してきた。こんな昼間から電車に揺られて飲むなんてと思ったが、にこにこして差し出されると無下にもできなかった。きっとどこかのインタビューでビール好きだと話したのを覚えているのだろう。 「ありがとう……智徳さんは?」 「僕は大丈夫です。あ、お弁当もありますからね」 「知ってるって、さっき一緒に選んだじゃん」 「ははっ、そうですよね」
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

365人が本棚に入れています
本棚に追加