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心なしか智徳もうきうきしているように見える。一生に一度はお参りしたいと言われるだけあって、平日にもかかわらず大変なにぎわいだ。
「あっ、この七味のお店は有名ですよね」
「買っていきますか?」
「ん、いーや。俺辛いの苦手なんで」
何の気なしに言った言葉が智徳のツボに入ってしまったらしい。ひとしきり腹を抱え、それでも笑い声を殺して身体を折る様子は、今までに見たことのない仕草でつい目を奪われてしまう。
「そんな面白いこと言ったつもりないんだけどなあ、智徳さんて笑いのツボずれてるよね」
「そうかも……すみません」
仁王門をくぐり抜け、山門を目指す参道は、さらに賑やかな仲見世になった。つい実は甘いものがすきな嵐史はつい目移りしてしまう。
「なにか食べますか? あのお饅頭屋さんは有名みたいですよ」
「うーん、でも帰りにしましょう。まずはお参りしないとね」
立派な山門を見上げ、写真を撮っていると、写真を撮ってほしいとカップルに声をかけられた。
「はーい、いいですか? チーズッ」
山門を背ににっこり笑うカップルをカメラに収めると、お礼を言われる。
「よかったら、おふたりの写真も撮りましょうか?」
つい顔を見合わせたが、智徳はすぐに視線を逸らした。
「あの……だいじょうぶで……」
「いいですか? じゃあお願いします!」
驚いて振り返った智徳を遮るように、自分のスマートフォンを女性に差し出した。カチンコチンに緊張している智徳に腕をからめ、ピースサインをする。
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