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「ごちそうさまでした。すごく美味しかったですね」
「ほんと、急に決めてしまったけれど、大正解でした」
「この後は、どうしましょうか?」
「アラシさん、疲れてないですか?」
「全然大丈夫ですよ」
「それなら……甘いもの、いけるんですよね。デザート行きましょう」
お参り前に通った道を戻るようにして歩いていると、大きな古民家をリノベーションしたような建物が見えてきた。近付くとカフェになっている。
「すごいレトロだな。こういうの、好きかも」
「よかった……ここのカフェ、リンゴのタルトがおいしいらしいですよ」
「やっぱりこっち来たら、リンゴは外せないですよね」
ふっと目が合って数秒沈黙のうち、ふたりで大笑いした。
「なんか僕たち、女子みたいですね」
「ホント、笑えます。でもすっごい楽しい」
長らく、こんなふうにのんびりと散歩したり、食べ歩いたりしていなかった。というか、生まれてこのかた、このような時間の過ごし方をしたことがないかもしれない。
いつも、どこかに遠慮するか、がむしゃらに突き進むかしかなかった。
智徳と過ごす時間、なんてことない会話は、嵐史にとって自然になれ、時間はあっという間に過ぎていった。
カフェでたっぷり休憩をしていると、いつのまにか窓の外は薄暗くなっていた。
「そろそろ……でますか?」
「はい、では帰りのチケット取っちゃいますから、もう少しゆっくりしててくださいね」
「は?」
オンラインでチケットを取るつもりなのだろう、智徳はスマートフォンを取り出し、画面を見ている。
「なるべく早めのを取るようにしますね。この時間なら、日帰り出張なんかのピークにはかからないと思いますので」
今までの楽しい時間が、がらがらと崩れる音が聞こえる気がする。智徳の考えていることを、なんとなく理解できたような気がしていたのは、やっぱり気のせいだったのだ。
まさか智徳は、ボーイを買って、何もせず帰ろうというのだろうか。
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