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「あの……ホテルには行かないんですか?」
「はい? ああ…………今日はとても楽しかったですし、充分いい思いをさせてもらいましたので大丈夫です。本当にありがとうございました」
ここで打ちきりだというのか? そりゃあ、お客様にここまでって言われたら、これ以上引き伸ばすことはできないけれど。今の今まで、こんなに楽しくやっていたじゃないか。
自分が思っていたほどには、智徳を楽しませることができなかったという不甲斐なさと、夢中で遊んでいたのに、急に用事ができたからと友人に帰られてしまう、そんな置いてきぼりの気持ちを押さえることができない。
「……ばかじゃねえの」
「え……?」
「智徳さん、貸切のスーパーロングにしてるのに。明日の朝まで俺を拘束できるんですよ」
ウリ専が、例えば女性を秘密裏に買うより随分安いとはいえ、店のナンバーワンボーイである嵐史をほぼ丸一日借りているのだ。通常の欲望を満たす額とは比較にならないはずだ。
だから貸切を求める客は、ボーイにもそれなりのものを求めてくるのが当然なのに。恋人のようにエスコートして一日を過ごし、締めに思いきり甘い夜を過ごし て欲しいとか、一晩中ずっと挿れっぱなしにして欲しいなんていう、体力的にもハードな要望にも応えたこともあるくらいだ。
だが智徳はにこっと笑い、いいんですと引くばかりだ。
「もちろんその時間までの料金は払いますから。アラシさんも早退でラッキーくらいの気持ちでどうぞ」
だんだんと腹が立ってきた。正直嵐史を目の前にして、ここまで頑なに寝るのを拒んだ奴はいない。頭の中でぷちっと何かが切れた音がして、気付けば嵐史は仕事を忘れて智徳に不満をぶちまけていた。
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