4/111
前へ
/111ページ
次へ
「九十分コースですね。とりあえず、シャワー浴びましょうか」 「あのっ……い、いいです」 「えっ」  智徳は真っ赤になって俯いているが、規定通りシャワーを浴びないとプレイができない。部屋に入る前にその説明は店員が終えているはずだ。訝し気な表情をしている嵐史を見て、智徳が慌てて続けた。 「もちろん、このままことに及ぼうとか、そういうことは考えていません。何もしなくていいです」 「は?」 「話をするだけっていうのは…………だめなんでしょうか?」  消え入りそうな声で問いかけてくる智徳に、思わず吹き出してしまう。ウブなお客様もいないではないが、ここまでのは初めてだ。だいたい、それなりの金を払って何もしないなんて、酔狂にも程がある。 「ぷ……はははっ。俺は別にいいけど、智徳さんはそれでいーの?」 「はい、もちろんです。憧れのアラシさんと、こうやってひとつのお部屋にいるだけでもう、思い残すことはないくらいですから」 「大げさだなぁ」 「いえ、全然大げさではありません」  智徳は大まじめなようだ。小さなベッドの上で正座をしたまま、メガネの端をくいっと上げた。 「それで……差し支えなければ、二、三、質問をしてもよろしいでしょうか」  生真面目もここまでくると笑いを誘うのだと、嵐史は初めて知った。 「ふふっ……どうぞ、なんなりと」 「あの、いまアラシさんが発信するSNSや媒体などは、だいたい抑えているつもりなのですが、漏れているものがあったら、教えて頂きたいと思って」
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

364人が本棚に入れています
本棚に追加