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「九十分コースですね。とりあえず、シャワー浴びましょうか」
「あのっ……い、いいです」
「えっ」
智徳は真っ赤になって俯いているが、規定通りシャワーを浴びないとプレイができない。部屋に入る前にその説明は店員が終えているはずだ。訝し気な表情をしている嵐史を見て、智徳が慌てて続けた。
「もちろん、このままことに及ぼうとか、そういうことは考えていません。何もしなくていいです」
「は?」
「話をするだけっていうのは…………だめなんでしょうか?」
消え入りそうな声で問いかけてくる智徳に、思わず吹き出してしまう。ウブなお客様もいないではないが、ここまでのは初めてだ。だいたい、それなりの金を払って何もしないなんて、酔狂にも程がある。
「ぷ……はははっ。俺は別にいいけど、智徳さんはそれでいーの?」
「はい、もちろんです。憧れのアラシさんと、こうやってひとつのお部屋にいるだけでもう、思い残すことはないくらいですから」
「大げさだなぁ」
「いえ、全然大げさではありません」
智徳は大まじめなようだ。小さなベッドの上で正座をしたまま、メガネの端をくいっと上げた。
「それで……差し支えなければ、二、三、質問をしてもよろしいでしょうか」
生真面目もここまでくると笑いを誘うのだと、嵐史は初めて知った。
「ふふっ……どうぞ、なんなりと」
「あの、いまアラシさんが発信するSNSや媒体などは、だいたい抑えているつもりなのですが、漏れているものがあったら、教えて頂きたいと思って」
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