365人が本棚に入れています
本棚に追加
智徳からの貸切が入ったのはひと月後だった。泊りを含むようなロングの予約は週末が多い。考えることは皆だいだい一緒だから、実際に週末の予約が取れるのは先になってしまう。
今回の予約だってキャンセルが出たから、たまたま取れたものであって、アラシクラスのボーイを貸切るには通常なら最低三か月くらいは待たないといけないのだ。
「有給消化と重なって……運がよかったですね、僕」
ずっとキャンセル待ちを入れてくれていたのだという。
貸切が決ってから、智徳にどこか行きたいところはありますか? と聞かれて、正直とても迷った。お金のかかる場所をレストランやホテルを指定しても、智徳ならきっと支払いを渋ることはないだろう。だが、そういう気分ではなかった。
「なにか、趣味とかはありますか?」
「うーん、しいて言えば神社仏閣を見て回るのが好きですね」
とはいっても、両親が健在だった小学生の頃の話だ。智徳と一緒に行動すると考えても、違和感のない趣味を考えて遡っていたら、そこまで行ってしまった。だが、その答えを聞いて智徳の瞳が輝いた。
「本当ですか? 僕もです」
聞けば休日はほとんど何もせずにうちにいることが多いそうだが、たまに気になる寺や神社があると、下調べをしてそこを訪れるらしい。それもひとりで。
「ひとりで行って、なにをするんですか?」
「御朱印を頂いたり、お茶を点ててもらうこともあるし、あとは写経をしたり……いろいろですね」
「御朱印に写経? まるで、自分探ししてるOLみたいですね、智徳さん」
「……そうですか?」
「写真を撮ったりは?」
最初のコメントを投稿しよう!