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「樹ちゃん?」
「あ……」
花屋のアルバイトの帰り道で、偶然彼に遭遇した。
外で彼に会ったのは、この日が初めてだった。
「こんばんは。何してんの?」
「あ、今、バイトの帰りで……」
「へぇ、バイトしてるんだ。今から帰るの?」
年上の男性と二人きりで話す機会などなかった私は、緊張で少し震えてしまい、声は出さずに小さく頷いた。
「飯、もう食べた?」
「え?」
「もし良かったら、ちょっと付き合ってくんない?」
どこに……と私が聞く前に、もう彼は私の手を握りしめて歩き出していた。
彼の大きな手が、私の手を包み込む。
男の人と手を繋いだ経験さえない私は、このあり得ない状況に一人でパニックに陥っていた。
彼が連れて行ってくれた場所は、何てことない普通のファミレスだった。
子供の頃はよく家族で訪れていた場所。
そこで私はなぜだか、彼と食事を共にした。
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