12080人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
既にバイト先で食事を終えていたのに、私は彼からの誘いを断れなかった。
きっと本当に行きたくなければ、断っていたと思う。
断りたくなかったのだ。
どうやっても緊張してしまうし、決して会話が盛り上がることはないとわかってはいても、彼と同じ時間を共有したかった。
彼は、私にとって憧れの存在だから。
「あの、すみません……ご馳走になってしまって」
「何で樹ちゃんが謝んの?むしろ、付き合ってくれて助かったよ。誰かと一緒に食べた方が楽しいしね」
店を出た後、ご馳走になったお礼を伝えた私に、いつもクールな表情の彼が少しだけ微笑んだ。
私はその一瞬を見逃さなかった。
この人、こんな風に笑うんだ……と思った瞬間、彼は私の名前を呼んだ。
「樹ちゃん。手、出して」
「……手、ですか?」
よくわからずに、とりあえず言われた通りに右手を彼の前に差し出すと、彼は差し出した私の右手に折り畳まれた小さな紙を握らせた。
「これ……」
「俺の、携帯番号とメアド。いつでも連絡していいから」
「……」
この夜から、私と彼の関係は徐々に変化していった。
最初のコメントを投稿しよう!