プロローグ

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既にバイト先で食事を終えていたのに、私は彼からの誘いを断れなかった。 きっと本当に行きたくなければ、断っていたと思う。 断りたくなかったのだ。 どうやっても緊張してしまうし、決して会話が盛り上がることはないとわかってはいても、彼と同じ時間を共有したかった。 彼は、私にとって憧れの存在だから。 「あの、すみません……ご馳走になってしまって」 「何で樹ちゃんが謝んの?むしろ、付き合ってくれて助かったよ。誰かと一緒に食べた方が楽しいしね」 店を出た後、ご馳走になったお礼を伝えた私に、いつもクールな表情の彼が少しだけ微笑んだ。 私はその一瞬を見逃さなかった。 この人、こんな風に笑うんだ……と思った瞬間、彼は私の名前を呼んだ。 「樹ちゃん。手、出して」 「……手、ですか?」 よくわからずに、とりあえず言われた通りに右手を彼の前に差し出すと、彼は差し出した私の右手に折り畳まれた小さな紙を握らせた。 「これ……」 「俺の、携帯番号とメアド。いつでも連絡していいから」 「……」 この夜から、私と彼の関係は徐々に変化していった。
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