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「いや、あなたの言われることはわかるような気がします。たぶん、それは、間違ってはいない。でも、大部分の人達はそんなことは考えないし、そんなことを考えないから、毎日を過ごしていけるのかもしれない………。あなたも、ここにくる前からそんなことをずっと考え続けてきたわけではないでしょう。そして………、その頃のほうが、もしかしたら今より楽しかったのではないですか?」
「………。わかりません………。でも、そんなふうに言っていただけてうれしいです」
「え?」
「私の話したことに耳を傾けて、そして、正面から受け応えをしてくださったことに感謝しているんです。あの、失礼ですけど………、あなたはなんでここへ来られたのですか?」
「……いや、………」
「ごめんなさい。やはり、聞くべきではありませんでした」
「いや、いいんです。最近ちょっと、夜、寝付きが悪くて、会社の診療所に行ってみたら、ここを紹介してくれました。あ、もうそろそろ僕の順番かもしれない。待合室の方に戻ります」
「………」
僕は、これ以上会話を続けても彼女の満足するような受応えはできそうもないような気がしたし、それに自分のことを詮索されたくないという気持ちもあって、このあたりで話を打ち切って逃げようと思った。
「あなたも、お元気で……」
「………」
女は、うつむいている。僕はちょっと気になって、もう一言声を掛けた。
「どうか、しましたか? 気分でも……」
「あの………、あなたにお手紙を書いてもよろしいでしょうか?」
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