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[第二の手紙]
今日も、朝から雨が降っています。朝、ベッドの中で雨が屋根を叩く音を聞くと、なぜかわかりませんが、ほっとした気持ちになります。こうした施設の中の小さな部屋にとじこもって一日を終えることに対する罪悪感が、少しだけ和らぐような気がするのです。
天気のよい日に、輝くばかりの太陽を見たり、空を飛んでいく鳥や、そして飛行機、そう、それはこの病院の中から見える唯一の社会的な営みなのかもしれませんが、そんな物を見ていると、ここにこうしている私がいたたまれないような気がしてきます。それは、ヒマワリとか、カンナとか、そんな、いかにも元気に生きてます、っていう感じのお花を見たときも同じです。そこへいくと、紫陽花は心を許せる友達のような花です。けっしてこんな私のことを責めたりはしません。
今日は、もう少し私のことをお話ししてみます。
私は、三年前に大学を卒業し、ある大手の企業に就職しました。いわゆる女性総合職という身分で、回りにいる同期の女の子たちが制服を着てお茶を汲んだりコピーをとったりしている中で、自前のスーツで男性社員と同じように会議に出たり、社外の人達とも会い、桁の大きなお金を動かし、その代わり、随分と残業もし、気の進まないお付き合いもしたりしていました。でも、毎日のピンと張り詰めた緊張感が心地好く、こんな大学出たての女の子にいろいろなことを任せてくれる、というのが何とも嬉しくて、夢中で仕事をしていました。実際、仕事の質も量も同期の男の子たちにはけっして負けませんでしたし、試験やコンテストがあるといつも上位にいてみんなの羨望を集めていました。
そんなある日、ふとしたことから同じ職場の五年先輩の男性と話をすることがあって、いろいろなこと、そう、会社や仕事への問題意識や趣味の面でも共通する点の多いことに気がつきました。子供っぽい同期の男の子たちに物足りなさを感じていた私は、自分の考えをぶつけることができ、それを受け止めてくれることのできる人、という意味で、急速にその先輩に引かれていきました。彼も自分の世界を持った人でしたし、私ももちろんそうしたお付き合いと仕事を両立させてやっていくだけの余力がありましたので、しばらくは、夜、飲みにいって、あれこれと話をしたりしていましたが、そこはやはり男と女です。いつのまにか深いお付き合いになっていきました。
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