第二の手紙

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 そんなことを考えているうちに、私は、彼も迷っているのではないか、周囲のおしつけや一時の思い込みで彼の信念に背く決断をしようとしているのではないか、そのような結婚をしても彼は将来必ず後悔することになるのではないか、そして、もしそうであるならば、それに気づかせてあげるのが私の役目ではないか、私と一緒になるということはもう全然別としても、彼の目を覚ませてあげることが、今、彼のことを一番よくわかっているはずの私に与えられた義務なのではないか、と考えました。  でも、私のほうから会う時間を作ってもらってそのことを伝えたとき、彼は明らかに迷惑そうでした。彼の頭の中は、すでにその重役、それは次かその次の社長になるというのが周囲の共通した見方でしたが、その人と姻戚関係になって会社の上層部に上り詰めていくことしかなかったようです。確かに能力のある人でしたから、そのような役回りを演ずる人に選ばれても不思議はありませんでした。  彼は、私のほうに未練があるように誤解したのでしょう、君には申し訳ないことをした、と謝り、しかしもう二度と会わないでくれ、というようなことを言いました。私は、自分の伝えようとしたことが彼にまったく理解されず、ひどく寂しい思いをしました。そして、そんなふうに変わってしまった彼を見ていたら哀しくなり、生まれて初めて、男の人の前で涙を見せました。その涙も、たぶん誤解されたのでしょう。  それから数日後です。私は会社の上司に呼ばれ、健康診断の一環として病院に行ってみてくれ、と言われました。定期検診は終わったばかりだったし、別に体に不調はありませんでしたのでそのように言いましたが、入社して二年以内には全員が受けることになっている、というようなことを説明され、すでに訪問日まで指定されていました。そうしてやってきたのがこの病院です。
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